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『不可脱不眠』(ギル×ヒカリ)

ギル×ヒカリ ぶきようぎる

べっ、別に寂しかったわけじゃないぞ!

…そ、その…ヒカリのせいで眠れなかったから!

『不可脱不眠』


最近、夜ベッドに入ると考えてしまうことがギルにはあった。
夜は人の気分をおかしくさせるもの。
好きな人と…と男なら誰でも思いを巡らせてしまう、いわゆる夜のやっかいな妄想というやつだ。

「…このぼくが…」

自制が効かない…
なんて情けない男だろう、ぼくは。
でも…

「ヒカリ…」

白い天井に向かって手を伸ばす。
ギルは頭を振り、仰向けだった体を横に倒してキツく目をつむる。ギシリ、とベッドが軋む音だけが静かに鳴った。
こんなことではヒカリに嫌われてしまう。
そう自分を諌めてみるが、全くうまくいかない。
少しボーっとしてしまうと、途端に浮かかんでくるヒカリの姿。 瞼の裏にも、目を開けていても。
ヒカリの胸。くびれ。健康的な四肢。

ヒカリにもっと触れたい。

フルフルと首を振って、ベッドから起き上がる。

「…はぁ…ぼくはいったい…」

ギルの顔は熱を帯びて赤くなっていた。
自分でもそれに気付き、部屋を明るくして台所に向かい、冷えた水をコップに入れて一気に飲み干す。 一息。

やはり明るいと少し、落ち着くな…。

自分では押さえられない妄想のせいで、最近は毎日寝不足気味な日々が続いている。
自分でもこれは不味いと思って早いうちから寝ようとしているのだが…

「はぁ…」

この通り、暗闇のせいで変に頭が冴えてしまう始末。
それもこれも、この間の告白の一件のせいだ。

一週間程前、ギルはヒカリに愛を告白した。
オーケーをもらって、思わず自分からキスもした。

「…柔らかかったな…ヒカリの…」

言いかけてぐっと言葉を詰める。
誰もいないに決まっているのだが、思わず室内をキョロキョロと見回してし まう。

そして、ヒカリの唇の感触を思い出し顔を火照らせて、またため息。

時計をみると10時を少し過ぎたところ。

「…散歩にでもいくか。」

少し夜風に当たって頭を冷やそう。

そう考えて家を出たギルだが…無意識のうちに足が牧場の方へと向いていた 。
つまり、たどり着いてしまったのはヒカリの牧場。

あれは…

「ヒカリ!」

少し離れた位置からでもわかる。
牧場近くの池に向かって釣り糸を垂らしているヒカリに向かって、ギルは小走りに近づく。

ヒカリもギルの声に気付き、振り返ってニコリと笑顔で手を振った。

「どうしたの?こんな時間に。」

「まったく…それはこっちのセリフだ。今何時だと思っている。もうすぐ11時だぞ!」

「心配してくれてるの?」

「べっ、別にそういうわけじゃないが…」

ヒカリは嬉しそうにえへへと笑いながら垂らしていた釣り糸を巻き取る。

「うん。今日はもうやめるよ。それで、ギルこそこんな時間にどうしたの?私に用事?」

「…そ、それはだな…」

特に用事もなく、ただ勝手に足がここに向いてしまった…などとは言えず、ギルは目を逸らして口ごもる。

「とりあえず、ここじゃなんだし…お茶くらいならすぐ出せるから、家に寄ってかない?」

「いいのか?」

「ギルが良いなら大丈夫だよ。」

そう言ってヒカリは自宅にギルを案内して「ちょっとまっててね」と椅子に座らせる。
ギルはヒカリの家に初めて足を踏み入れたためか少しドキドキしていたが、ヒカリの空気に満ちた部屋はどこかギルを安らげた。

「はい、コーヒー。」

ヒカリはギルにコーヒーを手渡して、自分も席についてコーヒーをテーブルにおく。

「…なんか、ヒカリの家は落ち着くな。」

「そう?よかった。」

ヒカリは柔らかく微笑んでコーヒーを両手で包むようにもって、少し飲む。

「それで、ギルはどうしたんだっけ?」

「…寝付けなくて、散歩をしてたらここまできてしまったんだ。」

ギルは安心しきったせいか、素直に本当のことを話す。

「…最近ずっとだ。ヒカリのことばかり考えてしまって…」

ギルはそこでハッとして口をつぐみ、恥ずかしそうに顔をそらす。
いくらなんでも素直すぎた。

「…寝れないの?」

「…ヒカリは、そういうことは、その……ないのか…?」

不安そうにヒカリを上目ずかいで見上げて、口を少し尖らす。
ヒカリは少し困ったように笑って、子首を傾げた。

「あるよ。…だからさっきみたいに釣りとかして思いっ切り疲れることにしてるんだ。そしたら嫌でも眠くなるから。」

それを聞いたギルは一瞬きょとんとして、すぐにうれしそうな表情をした。

「そ…そうか!ヒカリもか…」

2人で照れながら笑いあい、しばらくもじもじとした空気が流れた。

「…あの、ギル。良かったら、今日は家に泊まっていかない?」

「…え?」

いきなりのヒカリからの誘いにギルは目を丸くさせて酷く困惑する。

「ほら!もう遅いし、それに一緒に寝たら早く寝られるかなって思って…」

ぽかんとするギルにヒカリは真っ赤になって手をぶんぶんと顔の前で振る。

「別に、嫌ならいいんだけど…」

「い、嫌じゃない!!」

思わず身を乗り出してギルは叫ぶ。が、すぐに自分のした行動が恥ずかしくなり、しおしおとまた大人しく席につく。

「じゃあ、一緒に寝よっか。」

ヒカリははにかみながらギルに笑顔を向ける。
そんな笑顔をむけられてギルの動悸は一層激しくなり、コクリと頷くことしかできない。

「私、お風呂入ってくるから先に寝てていいよ。」

そう言ってヒカリは席を立ち、ギルは一人残された。顔を真っ赤に、しかし本気で困った顔で、ギルは手のひらで顔を覆いうなだれる。

ヒカリと一緒のベッドで寝ることになってしまった。

ヒカリは今、風呂に入っている。

どうする、ギル?

ぼくはいったい、どうしたらいい?

はぁぁ…と深いため息を吐いてギルは1人悶絶を続ける。

とにかく、ヒカリがでてきたときにまだここにいたら、同時にベッドにはいることになってしまう。
それなら、先にベッドに入って待っていたほうが…いや!寝ていた方が…!

ギルはゴクリと唾を呑んで席を立ち、ベッドへ向かう。
しかし、まっすぐベッドにははいれず、目標物の前で足を止め再び戸惑う。
ギルが思っていたよりも、それは小さかったのだ。

距離をとって寝れば…と考えていたが、これでは2人でそんなに距離はできない。

今更ながらオロオロし始めるが、もうどうしようもない。
ギルは決心をつけ、ヒカリのベッドに体を滑りこませる。

できるだけ端に…

隣に来るはずのヒカリに背を向けるように、ギルは壁と向かいあう。

ベッドに入った瞬間から感じていたヒカリの匂いだが、こうして場所を落ち着けてじっとしているとさらに敏感に感じてしまう。
布団にも枕にもシーツにも染み込んでいるヒカリのやわらかな匂いが、ギルをまんべんなく包んでいる。
そのせいで激しい動悸が大人しくなる気配は全くない。

ふいにギルの背からガチャリとドアが開く音がして、それはすぐ静かに閉められる。

近づく足音。ギルの鼓動はその足音が近付くにつれてさらに高鳴りを増す。

一歩一歩次第にベッドに近づき、ベッドの前で少し躊躇うように止まってから、遠慮がちに中へと入り込む。
ギルの背にヒカリの手がそっと触れる。

「…ギル?まだ起きてる?」

「あ、あぁ。」

背中を向けながら、裏返りそうになる声を必死で抑えつけ、平静を装いながらいう。
するとギルの両脇からヒカリの腕がスルリと入り込んできて、そのままギルをぎゅうと抱きしめた。

「ヒ、ヒカリ?」

暖かく柔らかい感触。
破裂しそうになる心臓。
ギルはぎこちなく体を固め、真っ白になった頭で何かを考えようとするが、できるわけもなく。

「ギル。私、こうやってギルに甘えたい。…安心したい。」

「こっち向いて?」と言われ、ギルはぎこちなくだが、素直にその言葉に従ってヒカリと向かい合う。
目に映るヒカリは風呂上がりの火照った顔をしていて、目は少し潤んでいた。
ピンク色の可愛らしいパジャマを着て、その腕でギルを正面から再度抱きしめた。
ギルの胸に、額を甘くぐりぐりと押し付けて。
ギルはもちろん機能停止、ヒカリに腕をまわし返すこともできていない。

「…だから、ギルも私に甘えていいんだよ?」

回していた腕を少し解き、ヒカリはギルに優しくキスをした。
ギルは顔を真っ赤にして、真剣な顔で目の前のヒカリと目を合わす。

「…ぼくも、ヒカリに…キス、してもいいか?」

緊張した面持ちでそういうと、ヒカリはこくっと頷いて目を閉じる。
ギルはゆっくり顔を近づけ、ヒカリに軽く口付けた。
そして、今度はギルが少しぎこちなくヒカリの背に腕をまわし、ヒカリの胸に顔をうずめるように抱きしめた。
ヒカリも優しく抱きしめ返す。

「…ヒカリ。」

「なぁに?」

「あったかいな。」

「うん。」

「安心、するな。」

「うん。」

「いい匂いだ…。」

ギルはぎゅっとヒカリを抱きしめる。
ヒカリが片手でギルの頭を優しく撫でてやると、ギルはとても安心した気持ちになって、少し身じろぎして更にヒカリと密着する。

「おやすみ、ギル。」

「…おやすみ、ヒカリ。」

2人は安らかに、ただお互いの鼓動を感じあって。
幸せそうに、夢の中へと落ちていった。




翌朝、ギルは夢現の中で何か暖かいものが腕の中にあるのに気付き、それをぐっと引き寄せて抱きしめた。
その際、両手が異常にやわらかい感触のなにかを見つけ、それを無意識に掴んで何度か感触を確かめるように触る。

「…ル……ギル。」

聞きなれた大好きな人の声が耳に届き、ギルは安心したような表情で少し微笑み、

「ヒカリ……」

と掠れた響きでぽつりと呟き、気持ちよさのあまりまた夢の中へ戻ろうとした…が、なにかがおかしい。と、ギルはいきなり不審に思って目をつむったまま眉を寄せる。

ヒカリの声…?
なんでヒカリがウチに…?
いや…違う…そういえば、ぼくは今ヒカリの家に…

はっとなって目をパチリと開けると、自分の抱きしめていたものをみて顔を赤くした。
ギルはパジャマ姿のヒカリを背中からしっかりと抱きしめていて、そして…
そして、自分の手がしっかりつかんでいる異常にやわらかい感触のそれは…

ギルは「うわぁ!」と声を上げてガバッと起き上がった。

「ひっ、ヒカリ!その…なんというか…ぼっぼくはっ、決してやましい気持ちがあったわけではなくて、無意識にっ!」

ギルは顔をタコのように真っ赤にしてあわあわと手を振る。
ヒカリはギルから解放されると同じように顔を真っ赤にさせて起き上がり、ベッドの上でペタンと座った形で両手をクロスさせて胸を覆い、

「…ギルのえっち。」

と恥ずかしそうに呟いた。

「だから!そのっ…すまないっ!」

ギルは思わず土下座をして深々と謝る。
それをみてヒカリはふふっと笑い、ギルの頭を優しく撫でた。

「許してあげる。…おはよう、ギル。」

ギルは撫でられた頭を触りながらおずおずと状態を起こし、ヒカリの笑顔を見て安心する。

「…おはよう、ヒカリ。」



ヒカリと共にハモニカタウンに帰ってきたギルは、家の前までついてきたヒカリに礼をいう。
ヒカリはそれを聞いて小首を傾いでニコリと笑った。
それはまるで、「またいつでもきていいよ」と言っているようで。
ギルもそれに対して曖昧に頷いて、2人は別れた。

家に入るとそのままドアに寄りかかり、ギルは自分の両手を見てはぁっとた め息をはく。
まだ、あの柔らかな感触を手の平が覚えているのだ。

今日もまた、きっと眠れない夜なのだろうな。

ギルはそう思って椅子に座って仕事を始めようとするが、なかなか手につくものではなく、ぼぅっと窓の向こうを見つめる。

…いや、きっとしばらく眠れない夜は続くに決まっている。


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