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ルーク→ヒカリ(ボアン側からの視点)
せんぱい、いい加減落ち着いてくれないかなぁ…
『困ったせんぱい』
ここは木工所コルネット。
この小さな作業小屋(兼ダイの家)にいつも暑苦しい空気を放っているのは、ここの一人息子のルークだ。
最近ルークには気になる人がいる。そのせいで最近はいつもそわそわして落ち着かない様子である。
その人は午前11時ちょっと過ぎに戸をたたく。その時間が迫ってくると、ルークの目はたびたびドアをチラチラチラチラ…
木を削る鉋を持つ手がおろそかになるのをみてボアンはそろそろ11時か、と半ば呆れつつも思い、木工所の外にでた。
「はぁ。」
「あ、ボアンおはよう!!」
ルークをあんな状態にしている張本人が、木工所の扉をしめたところでちょうど目の前にやってきた。
「ヒカリさん、おはようございます。」
ボアンは、ルークには絶対向けないであろう優しい笑顔でヒカリの挨拶に答える。
「どうしたの?またルークのことで悩みごと?」
そう聞かれて、思わずため息が漏れた。
「はぁ…まぁ、そうです。あの人、最近そわそわとして普段以上に落ち着かなくて…」
「どうして?何か楽しみなことでもあるのかな?」
「どうしてってそりゃ…」
言いかけてボアンは口をつぐむ。
端からみていてもハッキリとわかるほどヒカリのことを意識しまくっているルークだが、ヒカリはまったくそれに気付いていないのだ。
ここで気付かせてルークにとっていい方向にいくのは面白くない。しかし…
「…そうだ!ヒカリさん、ルークせんぱいにもう少し落ち着けっていって下さいよ。」
我ながらいい考えだとボアンは思う。ヒカリのいうことならルークもきっと自分よりはきいてくれるだろうと。
「あはは、無駄だと思うけどなぁ…わかった。言ってみるよ。」
ヒカリは笑いながら快く返事をして、鞄からハーブティーを取り出してボアンに差し出し、「じゃあね。」と言って木工所内に入っていった。
「いい人だなぁ…」
ルークがヒカリを好きなるのはわからなくもない。というか、すごくわかる。
元気いっぱいで可愛らしいし、毎日「お仕事頑張って」とハーブティーをくれるし、自然を大切にしているし…
「…はぁ」
ヒカリがしばらくして木工所から出て行ったあとボアンが小屋に戻ると、ルークはいつものように無駄に騒いではおらず、静かに作業をしてはいたが、輝かんばかりの満面の笑みを顔にたたえていた。
まぁ、静かなだけいいか…
そんなルークを横目に見ながら、冷蔵庫を開く。…と、冷蔵庫の棚が2段あるうちの上1段をまるまる使って、バナナプリンが大事そうに置かれていた。
上の段に置かれていたはずのもの達は必然的に下の段へ、乱暴に詰めこまれていて。
それを見た瞬間、ボアンの口からは当然ため息が漏れた。
―ここは木工所コルネット。
この小さな作業小屋(兼ダイの家)にいつも暑苦しい空気を放っているルークが、今日は一段と暑苦しく爛々としていた。
「うぉぉぉぉ!!」
ルークと一緒の部屋にいるボアンは、その無意味にしか聴こえない声を聞いて迷惑そうに肩をすくめる。
静かだったのは昨日だけか…
「ルークせんぱい。…すごくうるさいので静かにしてもらえませんか…」
無駄だとしりながらも一応声をかけてみたものの
「そうか!?ごめんな、だけど今は無理だ!!」
鉋を勢いよくかけながら、勢の良い笑顔でそう告げられ、ボアンはいつものようにため息をはく。
今日のルークはやけに機嫌がいい。作業をみてると、いつもよりも削りが多少荒くなっているのがみてわかる。
いつもハイテンションだが、作業はキチンとしている。さすがは木工所の一人息子というだけはある腕の確かさだ。
しかし今日は、まだまだのボアンから見てもわかるほどダメダメだった。
どうやらその原因は、ヒカリと約束を取り付けられたことにあるのだろう。
「おいルーク。元気なのはいいが、少し落ち着いて作業したらどうだ!!削りが荒いぞ。」
「うぉぉ!!!本当だ…すまんオヤジ!!」
今更それに気付きルークは本気で驚く。
「ったく浮かれやがって。今日はもういい。外で頭冷やしてこい。」
「うっ………わかった。」
ショックを受けながらも、ルークは嬉しそうな顔をして小屋を出て行った。
「…ヒカリさんのこと、すごく好きなんですね…」
ルークがいなくなったあとに、ボアンは呆れたように呟く。
ダイは図面を手際よくシャッシャと引きながらそれに応答する。
「そうみたいだな。…ヒカリはルークにはもったいないくらい良い女だけどな。」
「ですよねぇ…ぼくもそう思います。」
「だがな、あいつもあいつで良いところがある。それに一人息子だしな。応援してやるさ。」
少し微笑むダイをみて、ボアンも困った顔でほんの少し微笑む。
「そうですね。ぼくもたった1人のせんぱいだし…うるさいけど…応援してあげますか。」
ダイが見せた嬉しそうな父親の顔は、ボアンにそう言わせるだけの力を持って心を強く打ったようだ。
もしヒカリさんと付き合うことになったら、少しは静かになってくれればいいな。
ボアンは途中のままの作業を引き継ぐために、ルークがどいた作業台の前に立つ。 そして鉋を手にとり、傍目でみていたよりも荒い木目を見て苦笑する。
…って無理か。
こんなんじゃ付き合い始めたらもっとうるさくなりそうだ。
『おまけ』
朝。食卓を男三人で囲む木工所コルネット内。
「ルーク先輩。そのプリン、昨日ヒカリさんにもらったやつですよね?」
「おぉ!今朝食べようと思ってとっといたんだ!」
「ぼく、それちょっと気になってたんです。少し食べさせてくださいよ。」
そういってボアンはスプーンを取り出してバナナプリンをつつこうとしたが、ルークが焦ってすぐに皿ごとボアンから遠ざけてしまったせいで空振り。
「なんでですか。ちょっとぐらいいいじゃないですか!いつもなんかもらってるんでしょう?」
「だめだだめだ!おれがヒカリにもらったんだ!おれが全部食べる!」
「ルークせんぱいってばケチですね。あーあ、ヒカリさんの作るものって美味しいからそれも食べてみたかったのになぁ。」
ボアンはそうぼやいてまずい飯をつつく。
二人にはいってないが、コルネットで出される料理はお世辞でも美味いとはいえない。
対してヒカリの料理は、アルモニカの料理人であるチハヤが認める程の腕の持ち主だ。
だからヒカリの作るものが、ボアンにとっては眩い光を放つ神がかり的なものに思えてしかたない。
ボアンのぼやきを聞いたルークは眉をピクリと動かす。
「おまえ、ヒカリの料理食べたことあんのか?」
「えぇ。きのこご飯とか、おにぎりとか。最近はハーブティーをよくもらいますけど…。」
たいしたことでもないように話すボアンを見て、ルークはどこかショックをうけた表情をして固まる。
それを見てダイは「はぁ」と軽いため息をはいて食事を続ける。
「どうしたんです?」
「お、おやじも、ヒカリから、よくなんかもらってるのか?」
「…おれはボアンとおまえほどしょっちゅうはもらってないけど、たまにはな。」
「ボアンと、おれほどってことは…」
ショックをうけたままの表情でルークはボアンを凝視する。
ボアンはその視線を受けて、しまったと思った。
ルークにとってはそれはたいしたことだった。
なにせ、毎日のようにここを訪れるヒカリが何かもってくるのは、自分にだけと思っていたのだから。
しかも、ボアンがヒカリからもらっているのは、ルークがもらったことがない飯類である。
ごはん。それは家庭的な雰囲気をかもしだす料理である。
それを、よくもらっているという。
「知らなかった…」
ルークは酷く落ちこんでしまったようで、それをみてボアンは少し焦る。
「でも、ルークせんぱいより凝った料理なんてもらったことありませんし。」
「……でも…ヒカリの、めし…」
「あぁ、もう。」
ボアンはため息をついて打開策を必死に考える。
「そんなにヒカリさんのご飯が食べたいなら、今からいって頼んで食べてくればいいじゃないですか!」
やけになってそういうと、ルークははっと顔を上げて顔を輝かせた。
「そうか……そ、そうだな!おれ、ちょっと行ってくる!」
すぐさまガタンと椅子から立ち上がって、ルークは行く準備を始める。
ダイもボアンも呆気にとられてその様子をぽかんとみている。
「あっ!!バナナプリン冷蔵庫にいれといてくれ!くれぐれも食べるなよ!!」
口早にそう言うと、ルークは一寸の迷いもなく出て行ってしまった。
ダイとボアンは顔を見合わせてため息をつく。
「単純だな、あの馬鹿は。」
「押しかけてまで食べようなんて、普通思わないですよね…」
「おまえが言ったんだろう。」
「そうですけど…」
しばらく二人はもくもくとご飯を食べながら、ルークが座っていた席に置かれているバナナプリンをみていた。
「どうせぼくのおかげでヒカリさん家でご飯食べてくるだろうし…これ、食べてもいいですよね?」
「おう、おれにもちょっと食べさせろ。」
「えぇっ、ちょっとだけですよ?」
「けちけちするな。」
一方ルークは、
「おぉ!すごいな!しかもすげぇうめぇ!!」
「そういってもらえてよかった。…そうだ、ねぇルーク。この前の手紙の『水曜日 樹の上で ダイナマイト』ってどういう意味?」
「うぇ…っ!?あ、あれは、だな。その。な、なんでもねぇ!気にするな!それよりさ、仕事ちょっと手伝ってやるよ!」
「ほんと?ありがとう!じゃあちょっと手伝ってもらっちゃおうかな。」
と、かなり幸せそうにヒカリと一緒に食事をとっていた。
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